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東京高等裁判所 昭和40年(う)2086号 判決 1966年6月27日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一〇月に処する。

押収してある刀剣九振(昭和四〇年押第七七一号の一ないし九)を没収する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

一弁護人の控訴趣意中事実誤認の主張について<省略>

二検察官の控訴趣意第一点(法令適用の誤の主張)および弁護人の控訴趣意中罪数に関する法令違背の主張について

銃砲刀剣類等所持取締法第三三条第一号の罪(以下単に「刀剣所持罪」という。)は、刀剣が一般的に危険物であることに着目して、危害予防上必要な規制として、同法第三条第一項各号にあたらない刀剣の所持を処罰するものであって、刀剣所持罪は同法第二条第二項に規定する刀剣を所持することにより成立し、たとえば同法第三条第一項第二号に規定する許可または同項第四号に規定する登録を受けたことによりその違法性を阻却されるにすぎないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三一年一二月二五日第三小法廷決定、集一〇巻一二号一七〇一頁以下参照)。したがって、刀剣所持罪の保護法益は、刀剣という危険物の所持による社会的危害の予防にあるというべきである。また、刀剣所持罪は、いわゆる継続犯であって、刀剣を保管するという実力支配関係を実現する行為があれば、法益侵害の状態が開始され、法益侵害の状態が継続するあいだ犯罪事実が継続するものであり、不法所持の継続の終了の時をもって犯罪の終了時と解するのが相当である(最高裁判所昭和三五年二月九日第三小法廷決定、集一四巻一号八二頁以下参照)。記録および当審における事実取調の結果によると、被告人は原判示の刀剣九振のうち原判決別表1の一振は昭和三九年春ごろ矢内啓雄より、同2、5および9の計三振は同年三、四月ごろ鈴木昭より、同3、4、6および8の計四振は同年八月上旬ごろ柳田貞衛より、同7の一振は同年五、六月ごろ渡辺幸三郎よりそれぞれ譲り受け、爾后肩書住居において同三九年七月二八日に至るまで引き続いて所持していたものであって、所持するに至った時期、入手先を異にするものの、いずれも多数の刀剣を蒐集する目的で所持するに至ったものであり、これらの所持の経緯および態様と前記のような刀剣所持罪の保護法益および罪質を考え合わせると、被告人の原判示の刀剣九振の所持は包括的に刀剣所持罪の一罪とみるのが相当である。原判決がこれを九個の刀剣所持罪であるとして併合罪に関する刑法の規定を適用したのは、法令の適用を誤ったものというべく、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。検察官の論旨は理由があるが、弁護人の論旨は刀剣の入手先ごとに別罪を構成するとする限度において理由がない(弁護人は、検察官は原判決の併合罪としての法令適用を包括一罪として論難することができない旨主張するけれど、検察庁法第四条、刑事訴訟法第三八〇条の趣旨にかんがみ、採用の余地がない。)。

そこで、本件控訴のうち、検察官の控訴は、その余の控訴趣意について判断するまでもなく、理由があるから、その余の控訴趣意についての判断を省略して、刑事訴訟法第三九七条、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に則りさらに判決する。

原判決が確定した被告人の犯罪事実に法律を適用すると、被告人の原判示所為は、昭和四〇年法律第四七号銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律附則第五項、同法による改正前の銃砲刀剣類等所持取締法第三三条第一号、第三条第一項に該当するところ、情状を考えると、被告人が本件刀剣九振を蒐集したのは刀剣古物商を営みたいとの意図によるものであること、被告人が蒐集した刀剣が暴力団関係者へ流されたという形跡が窺えないこと、被告人は現在では寿組という土木建築請負業を営んでいること等被告人のため有利に斟酌すべき事情も存するけれども、被告人は本件刀剣九振を比較的短期間内に蒐集し所持していたものであって、本件刀剣九振はさほど美術的価値があるものでもなく、かつ、当時被告人は昭和三十九年三月二三日東京地方裁判所で競馬法違反により言い渡しを受けた懲役一〇月の刑につき保護観察付きで執行を猶予されていたものであること、被告人が古物営業法所定の古物商の許可を受けることができる見込であったとは認められないこと、被告人はテキ屋である飯島連合会に属したこともあり、現に本件犯行当時若衆四、五名を輩下に擁し、自宅入口に飯島連合会の代理事務所である旨を表示する「のれん」を掲げている等通常の市民生活を営んでいたものとは認め難いこと、被告人には前記の前科のほか、本件と同種のものを含めてほか一一回に及ぶ前科歴があることが明らかであって、その他被告人の経歴、家庭の状況等諸般の情状を考え合わせると、被告人について罰金刑をもって処断するのは相当でないから、所定刑中懲役刑を選択すべく、所定刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月に処し、押収してある刀剣九振(昭和四〇年押第七七一号の一ないし九)は原判示の被告人の犯罪行為を組成したもので被告人以外の者に属しないものであるから、刑法第一九条第一項第一号、第二項によりこれを没収し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。(三宅富士郎 石田一郎 西村法)

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